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新型コロナウイルスがもたらす影響
新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大を受けた緊急事態宣言による自粛等の要請に応じ、多くの企業が店舗の閉鎖や営業時間の短縮などの協力を行いましたが、海外からの観光客減少なども影響し、経営が悪化して倒産する企業も出てきています。
実際に、私の下にも、労働者の方から、コロナの影響で給料が支払われなくなったり、解雇をされてしまったという相談が来ています。
こうしたコロナの影響によるトラブルについて、労働者はどう対処すればよいのでしょうか。
給料の不払い、減額
1.実際に働いた分の給料を払ってもらえない
いつもどおり働いたのに、会社が経営難を理由に給料を支払わないとか、期限を明確にせず、ただ待ってほしいと繰り返すだけというケースがあります。
もちろん、労働者には、実際に働いた分の給料を全額払ってもらう権利があるので(全額払いの原則、労働基準法24条)、まずは会社にきちんと払うよう伝えましょう。また、給料債権には、ほかの債権に優先して支払いを受ける権利(先取特権、民法308条)が与えられているので、会社から「ほかへの支払いがあるから払えない。」と言われた場合には、給料はほかの支払いに優先されるものだと説明してみてもよいでしょう。
自分での対応が難しい場合には、労働基準監督署や弁護士に相談してください。
可能であれば、タイムカードや出勤簿など実際に働いていたことが分かる資料の写真を撮ったりして保存しておくと、出勤日や労働時間についての争いを避け、スムーズに解決することができます。
2.働き方は変わっていないのに給料が下げられてしまった
いつもどおり働いたのに、経営難を理由に給料を下げられたり、手当がカットされてしまったというケースがあります。
原則として、会社が一方的に、労働者の不利になるように労働条件を変更することは許されていませんので、まずは、もとの額を支払うように伝えましょう。
給料減額などの不利な変更が許されるのは、(1)労働者から個別の同意をとった場合、(2)会社と労働組合が労働協約を締結した場合、(3)就業規則による変更が合理的であり、就業規則が周知されている場合です。
会社は、(1)労働者からの個別同意をとるために、給与減額に際して、同意書のような書面にサインを求めることがあります。
労働者も、渡された書面の内容をよく読んで、納得できないものにはサインしてはいけません。
その場でサインを求められた場合でも、「よくわからないので、一度持ち帰りたい。」「大事なことなので、家族に相談したい。」と言って一度持ち帰りましょう。
また、(3)就業規則や賃金規程が変更されたとしても、労働者の受ける不利益の程度(いくら下がるのか)、変更の必要性(給与を減額しなければならないほど赤字なのか、経費や役員報酬削減等はしたのか)、変更後の内容の相当性、交渉の状況等の事情に照らして合理的といえる場合でなければなりません。
本当はそこまで困っていないけど、コロナに乗じて人件費を抑えようとする会社もないわけではないので、経営の具体的状況についても説明を求め、おかしいと思ったら、労働基準監督署や弁護士に相談してください。
休業
1.会社の判断で休業となり自宅待機になった
都道府県知事の休業自粛要請があり、在宅勤務など他の方法を取ることができないため、やむを得ず休業せざるをえなかった場合、会社には、休業手当を支払う義務はないと考えられる一方、要請がない状況で、会社の判断として休業した場合には、会社は労働者に対して平均賃金の6割以上の手当を払わなければならないとも考えられます(労働基準法26条)。
いずれの場合も、従業員に給料を支払った分会社がまるっと損をしてしまうわけではなく、コロナの影響により売上が減少して休業や時短としたが、従業員に一定以上の給料を払っていた等の要件を満たした場合、その全部ないし一部を雇用調整助成金により穴埋めすることができます。現在、要件も緩和されているので、会社に雇用調整助成金を利用できないか確認してもらいましょう。
もっとも、雇用調整助成金は、労働者が直接受け取れる制度ではないため、会社が手続きをしないと、労働者にお金が行き渡らないという問題があります。
現在(2020/05/21)、政府は、労働者が直接お金を受け取る仕組みとして、雇用保険のみなし失業制度を休業の場合にも使えないか検討中ですので、最新のニュースにも注目して、みなし失業制度が使えるようになった場合には、ハローワークに相談をしましょう。
2.コロナに感染し、長期間休まなければならなくなった
仕事中にコロナに感染したのであれば、労災の認定を受けて、治療費全額や休業期間中も80%の支給を受けることができるので、労働基準監督署に相談しましょう。厚生労働省は、医療従事者がコロナに感染した場合、原則として労災補償の対象とするよう通知を出しています。
また、私生活で感染した場合や、感染経路がわからない場合でも、休業した期間について健康保険の傷病手当金の支給を受けることができるので、健康保険証に記載されている健康保険協会や健康保険組合に相談しましょう。
上記は、各法律を前提としていますが、会社が法律よりも労働者に有利なルールを用意していれば、そちらが適用されます。
特に、休業手当については、会社独自の規程がないか、雇用契約書(労働条件通知書)、就業規則、賃金規程などを確認しましょう。
退職勧奨、リストラ・解雇
1.辞めてくれないかと言われた
会社から、経営が苦しいので辞めてくれないかと言われるケースがあります。
突然の話に驚いて、会社の言いなりになってしまうのが一番よくありません。
できるだけ落ち着いて、まずは、辞めてほしいというお願い(退職勧奨)なのか、クビ(解雇)なのか確認しましょう。
退職勧奨の場合、あくまで会社側からのお願いなので、退職する気がなければ、その旨はっきりと伝えて断ってください。
労働者が明確に拒否しているのに、重ねて何度も退職勧奨をするのは違法ですので、何度も退職勧奨を受けるようであれば、相手に秘密のままでよいので、会話を録音して、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
退職してもいいと思っても、会社の言うとおりに退職届を出すのではなく、退職の条件についてきちんと確認する必要があります。
退職届を出して「自主退職」となってしまうと、雇用保険を受給するときに3ヶ月待たなければならないことになり、すぐに受給できる「会社都合」や「退職勧奨による」の場合よりも不利になる場合があります。
「離職票に書く退職理由を会社都合か退職勧奨にし、残っている有給分を払ってもらえるのであれば、退職に応じてもよい」など、こちらの要望をきちんと伝えましょう。
2.リストラされてしまった
経営難を理由に解雇することを整理解雇(リストラ)といいます。
整理解雇は、会社が手を尽くした後の最後の手段ですので、要件を満たしていなければ無効となります。
整理解雇が有効となるためには、①人員削減の必要性(解雇が必要なほど赤字になっているのか、役員報酬や株式配当の状況はどうか)、②解雇回避努力(経費や役員報酬は削減されているか、賃金カットでは対応できないのか、希望退職者を募ったか)、③選定の合理性(なぜその人なのか)、④事前の説明協議義務の要件を満たす必要があります。
解雇が無効となった場合、復職を求めたり、話し合いで金銭支払いによる解決ができる可能性もありますので、弁護士に相談しましょう。
また、整理解雇が有効となる場合であっても、解雇は30日前までに予告しなければならず、会社が即日解雇をしてきた場合には、30日分以上の手当(解雇予告手当、労働基準法20条)を払ってもらう必要があります。
3.会社が倒産してしまった
会社が倒産した場合、以前から給料の支払が遅れていたとか、最後の給料が支払われていないという場合が多いです。
会社が破産手続きをとった場合、労働者はほかの債権者に優先しますが(優先的破産債権、破産法98条1項)、会社にほとんど財産が残っておらず、わずかな配当しか受けられなかったり、まったく支払いを受けられない場合もあります。
もっとも、給料については、未払賃金立替払制度があり、労働者は退職前6か月以内の未払賃金の80%と一定額の退職金について、労働者健康安全機構から支払いを受けることができます。
この制度は、会社が正式に破産手続きをとった場合だけでなく、事実上倒産してしまった場合にも使えますので、まずは労働基準監督署に相談しましょう。
まとめ
法律のお話は以上ですが、普段でさえ小さな子どもを抱えて次の就職先を探すのはとても大変なのに、コロナにより景気の悪化が見込まれる中、会社に睨まれたらどうしようといった不安があり、実際問題、なかなか声を上げられない状況もよく分かります。
ただ、解決の方法を分かったうえで、自分の今の状況を考えて、自分で選ぶというのと、よく分からないまま、何かおかしいと感じながら、不利な状況に流されてしまうというのでは、その後の選択肢が大きく変わってきます。
労働基準監督署や弁護士に相談したからといって、あなたが止めるのも聞かず、勝手に会社に対して何か請求し始めるということはありません。
自分にどんな権利があるのか、どんな選択肢があるか考えるためにも、まずは情報収集や相談をしてみてください。
アディーレ法律事務所 弁護士 島田さくら
https://www.adire.jp/profile/shimada_sakura/
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