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はじめに

1年のうちでもっとも多く火災が発生する季節はいつなのか、皆さんはご存知ですか?

消防庁によると出火件数(令和元年)は、5月4,342件、4月4,215件、1月3,969件、3月3,599件、2月3,413件の順に多く、実は冬より春の方が火災は多いそうです。

子どもは大人のまねをして、火遊びなどの危険なことをしてしまいがちです。春は進学・進級、引っ越しなど環境が変わり大変な時期ですが、子どもの様子にも十分注意しなければいけませんね。

もしも自分や子どもの不注意で、「火事を起こしてしまった」、「他人の車を傷つけてしまった」、「人にケガをさせてしまった」など、日常のなかで予想もしないトラブルが起きてしまったら、どのような法的責任に問われてしまうのでしょうか。

不注意による出火。法律上の賠償責任はないってホント?

まずは、不注意で火災を起こしてしまったときの法的責任についてご説明しましょう。

法律上、「不法行為」といいますが、わざと(故意)または不注意(過失)で他人に損害を与えてしまった場合、相手が被った損害を賠償しなければいけないのが大原則です(民法第709条)。

しかし、木造建築の多い日本では、いったん火災が起きると燃え広がって損害が大きくなってしまいやすいという問題がありました。

そのため、「失火責任法」という法律ができ、不注意で起きた火事(失火)の場合は、重大な過失(重過失)のあるときに限って責任を負わせることとなりました。

この「重過失」というのは、”わずかな注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見できたにもかかわらず、漫然と見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意力の欠如”のこと、簡単にいうと、“普通そんなバカなことはしないだろう”と思うようなレベルの不注意のことをいいます。

過去の裁判例では、「天ぷら油の入った鍋を中火にかけたまま台所を離れた結果、引火した」、「点火中の石油ストーブに給油し、こぼれた石油に引火した」、「点火中の石油ストーブから75cm離れた場所に置いた、ガソリン入りの容器が倒れて引火した」などのケースで重過失があるとされました。

さらに、失火により人が住んでいる建物等や他人の建物を燃やしてしまった場合は「失火罪」(刑法第116条)で50万円以下の罰金に、重過失でこれらを燃やしてしまった場合は「重過失失火罪」(刑法第117条の2)で、3年以下の禁錮または150万円以下の罰金に処される可能性があります。

子どもがトラブルを起こしてしまった場合、その法的責任は?

子どもの“責任能力”とは?

子どもは精神的にも肉体的にも未成熟な存在で、是非善悪の判断ができなかったり、自分の行為に何らかの法的な責任が生じると理解しないまま危険な行動をしたりして、焦った経験がある方も多いと思います。

ですので、子どもが不注意で他人に損害を与えてしまった場合の責任について、民法第712条では、子どもに「責任能力」(自分の行為の責任を弁識するに足りる能力)があるかどうかによって、誰に責任を負わせるかを変えています。

法律では、“何歳から責任能力がある”とはっきりした基準は設けておらず、子どもの成長に応じたケースバイケースの判断がされていますが、これまでの裁判例を見ると、小学校卒業程度の12歳頃が分かれ目となっていて、小学校卒業までは「責任能力なし」、中学生以上だと「責任能力あり」とされる傾向があります。

子どもに責任能力があるときは、子ども自身が法的責任を負います。これに対して、子どもに責任能力がない場合は、親などの監督義務者が”子どもの監督義務を怠らなかった”と証明できない限り、監督義務者に法的責任を負わせることとしました(民法第714条)。

もっとも、親が子どもの監督義務を怠らなかったと裁判で認められるのは、かなり難しいのが実情です。

また、子どもに責任能力が認められても、通常子どもは資力がなくて賠償できないため、被害者は子ども自身の責任に加え、監督義務違反があったとして親の損害賠償責任も追及するのが一般的です。

結局、法的にも道義的にも、子どもの行動の責任は親の責任となってしまうケースが大半ですので、子どもの教育や監督をしっかり行うことは、子どもの成長のためだけでなく、法律の観点からも自分たちを守るためにもとても大切なのです。

こんな時はどうなる?さまざまなケースにおける法的責任をチェック!

 

(1)火事を起こしてしまった

子どもは危険な火遊びをしてしまいがちですよね。子どもが不注意で起こした火災の法的責任を考えるには、先に述べた「失火責任法」も考慮しなければいけません。損害賠償責任を負うのは、単なる不注意というレベルではない「重過失」がある失火の場合、でしたね。

具体的には、子どもが失火により他人に損害を与えた場合、子どもに責任能力があるときは、子どもに重過失があれば、子ども自身が被害者に対して損害を賠償しなければいけません。

これに対し、子どもに責任能力がないときは、子どもの監督について重過失がなかったと証明できない限り、親が被害者に対して損害を賠償しなければいけません。

では、どんなときに、“親に子どもの監督について重過失がある”とされてしまうのでしょうか。過去の裁判例では、無人の倉庫に無断で入り込んだ10歳、9歳、7歳の子ども3人が、段ボールの上に置いたプラスチック製容器に新聞紙をちぎって入れ、現場で見つけたマッチで火をつけて遊んでいたところ、火が燃え移って倉庫が全焼したケースがあります。

子どもの行動を把握し、内容に応じた適切な指導・監督を怠った重過失があるとして、親の責任が認められました。

親としては、子ども同士で出かけるようになってから、実際に遊んでいる場所や行動が適切か、危険がないかをしっかり把握して、適切な指導・監督をするのは、まさに「言うは易く行うは難し」だと思います。

裁判で子どもの監督に重過失がなかったと認めてもらうのは、非常に難しいので、法的責任の観点からだけでなく、家族の命を守るためにも、「火の危険性をしっかり教育する」、「マッチやライターなどは子どもの手の届かないところにしまう」、「コンロの元栓を閉めて着火できないようにする」など、普段からしっかりと対策をしなければいけません。

 

(2)他人の車を傷つけてしまった

車が大好きで、他人の車でも興味津々で遊ぼうとしてしまう子どもに、焦った経験があるかもしれません。

子どもが不注意で他人の車に傷をつけてしまった場合も不法行為になるので、責任能力があれば子ども自身が、責任能力がなければ、子どもの監督について重過失がなかったと証明できない限り、監督義務者が損害賠償責任を負います。

さらに、もし“わざと”他人の物に傷をつけたということになると、「器物損壊罪」(刑法第261条。3年以下の懲役又は30万円以下の罰金もしくは科料)になります。子どもが罪を犯すと、14歳以上であれば刑事責任を問われる可能性もあります。

14歳未満であれば罪には問われませんが、少年事件として児童相談所や家庭裁判所などを中心とした法的手続がとられることもあります。

また、車の近くで遊ぶと事故に巻き込まれてしまう可能性もあり、非常に危険です。

子どもは安全な場所で遊ばせ、絶対に目を離さないようにしましょう。万一、車に傷をつけてしまうことがあれば、持ち主にきちんと謝罪して対応しましょう。

個人賠償責任保険に加入していなくても、自動車保険や火災保険などに個人賠償責任特約がついていることも多いので、不測の事態に備えて、まずは加入している保険を確認しておくとよいでしょう。

(⇒関連記事:不慮の交通事故。その後の対応はどうしたらいいの?)

 

(3)人にケガを負わせてしまった

「子ども同士のケンカで、手が出て相手にケガをさせてしまう」、「はしゃぎすぎて友達にぶつかってケガをさせてしまう」、「部活中にボールをぶつけてケガをさせてしまう」など、学校をはじめとした子どものコミュニティのなかでは、少々のケガやトラブルがつきものです。

子どもが不注意でケガをさせてしまった場合、ケガをさせた者が責任を負います。

つまり、これまでご説明してきたとおり、子どもの責任能力の有無に応じて、子ども自身、または親が責任を負うことになります。

さらに、保育園・幼稚園・小学校で起きたケガの場合、子どもを親に代わって監督する立場にあるとして、学校や園、教師も損害賠償責任を負う可能性があります(代理監督者責任)。

中学校・高校などで起きたケガで、ケガをさせた子どもに責任能力があるとされても、学校側は子どもたちの安全に配慮する義務があるので、学校や教師の損害賠償責任が認められることがあります。

そして、園や学校等に行っている間に起きた事故の場合、子どもの監督者は学校等であり、親には監督義務がなかったということで、親は責任を負わないと判断される可能性もあります。

なお、スポーツ中のケガの場合、スポーツにケガはつきものなので、ルールから著しく外れることがない通常のプレーのなかで起きてしまったことであれば、原則として損害賠償責任を負わないとされています。

しかし、ひどいルール違反があったり、危険なラフプレーをした結果にケガをさせたりしたときには、責任を負うとされることがあります。

 

(4)SNSに誹謗中傷を書き込んでしまった

私たちが子どものころとは異なり、多くの子どもたちはスマホやインターネットを利用しており、SNS絡みのトラブルがとても増えてきました。

以前に「学校裏サイト」の問題が大きく取り上げられたことがありましたが、文部科学省の「問題行動・不登校調査(2019年)」では、ネットいじめが過去最多を記録したそうです。

誹謗中傷を書き込むなどのネットいじめをした結果、相手が「精神的苦痛を受けた」、「こころの病気になってしまった」、「亡くなってしまった」などの損害を被った場合も不法行為となり、子どもや親は損害賠償責任を負う可能性があります。

また、誹謗中傷を書き込むと、「名誉毀損罪」(刑法第230条。3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)や「侮辱罪」(刑法第231条。拘留または科料)という犯罪になる可能性があります。

ネットいじめは、大変陰湿なものが多く、被害者は不登校や退学、転校を強いられたり、残念ながら自殺者も出たりしています。

短期間で深刻な被害をおよぼすため対策が難しい、被害者と加害者が簡単に入れ替わる、個人情報や画像などの流出によりさらなる犯罪に巻き込まれるおそれもあるなど、いろいろな問題をはらんでいます。

子どもに限らず、匿名での行為や相手の顔が見えない状況での言動は、短期間でエスカレートしがちです。

しかし、匿名での書き込みであっても、誰が書き込んだかを特定する法的な手続もあり、実は名前と顔を出して書き込んでいるのと同じなのです。

子どもにインターネットを正しく使う能力を身につけさせ、大人が子どものネット環境を適切に管理することも大切だと思います。

 

(5)声や足音に対して苦情を言われてしまった

子どもの大声や廊下を走ったり跳んだりする大きな足音で、ご近所とトラブルになってしまった方もいらっしゃるかもしれません。

コロナ禍による在宅時間やテレワークの増加で、近隣の音が気になってしまう場面も増えたようです。

社会生活を営むにあたり、ある程度の生活音を出してしまうのは避けられないですし、皆お互いさまですよね。

そのため、法律上も、音に関しては「受忍限度論」、簡単にいうと、“一般社会生活上当然に受任すべき、我慢すべき限度を超えた音の場合に限って違法とする”、という考え方が用いられています。

子どもの声や足音でも、受任限度を超える大きさの音であれば違法とされ、損害賠償責任を負うこととなります。

では、一体どのくらいの大きさの音であれば、法的に許されるのでしょうか。

騒音に関しては、環境省が騒音の環境基準を定めており、住宅地の昼間の騒音は55デシベル以下、夜間は45デシベル以下とされています。

とはいえ、音がこの基準を超えたら常に違法というわけではありません。

裁判では、「どんな種類の音がどの程度鳴るのか」、「どのような損害があるのか」、「地域環境はどうか」、「これまでの経過はどうか」、「騒音にならないような対策がされてきたのか」など、さまざまな事情を考慮して、受忍限度を超えているかどうか、ケースバイケースの判断をしています。

ご近所トラブルでは、感情がもつれてしまい、裁判沙汰にまで発展してしまうこともありますが、これからの生活を考えると、できればこじれる前に解決したいですよね。

カーペットを敷くなどの騒音対策をするほか、“誠意ある対応をしている”と相手に感じてもらうことも早期解決のために大切ですので、言いたいことはたくさんあるかもしれませんが、感情的にならず冷静に対処すべきです。

うるさいかどうかの基準は人それぞれで、法的に見れば言いがかりの場合もありますし、今後の関係を考えて、あえて中立な第三者を介した話合いのほうがよい場合もあります。

相手の言い分に疑問があったり、自分での対応が難しい場合は、専門家に相談したり、管理会社などの第三者に間に入ってもらうようにしましょう。

まとめ

子育てをするなかで、思いもよらないトラブルに遭遇することがあるかもしれませんが、そのトラブルでどんな責任を負うかの法的判断には、専門知識が必要です。「もっと早くご相談いただけていたら、よりよい対応ができたのでは…」と悔やまれることもあります。今直面しているトラブルが法的トラブルかどうかわからないという方も、不安を一人で抱え込まず、まずは弁護士などの専門家にご相談ください。一緒に問題の解決を目指しましょう。

アディーレ法律事務所 弁護士 正木裕美
https://www.adire.jp/profile/masaki_hiromi/

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日本シングルマザー支援協会より

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