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はじめに

お久しぶりです、弁護士の池田昇右です。2023年4月、12月に続いて、当コラムを執筆させていただきます。

離婚後も父親・母親が親権を持つ「共同親権」を可能とする、民法などの改正案が2024年5月17日に参議院本会議で可決され、成立しました。

この改正によって離婚後の親権制度を、現在の「単独親権」か、新たに導入される「共同親権」か、2つの選択肢から選ぶことが可能となります。

施行は2026年5月24日まで、となっており少し先の話です。とはいえ、親権争いで和解が成立せず、判決をもらうケースでは、親権者の決定まで2年を超えることが予想されます。

今後、離婚を選択する際、ご自身が親権を希望したり、もしくはパートナーから希望されたりする場合に備えて、現時点から、共同親権が選択できるようになったら、なにが変わるのかをぜひ知っておきましょう。

共同親権とは?

「共同親権」とは、子どもの父母双方が親権を持っていることをいいます。それに対して、「単独親権」とは、子どもの父母のいずれか一方のみが親権を持っていることをいいます。

これまで日本では、子どもの父母が結婚している間は原則として共同親権制、離婚した場合は単独親権制がとられていました。

親権とは、子供に対して認められる権利や義務のことです。親権の内容は大きく2つに分かれます。

一つは身上監護権、子どもの身の回りの世話をして子どもを育てるための権利義務のことです。身上監護権は、「監護権」とも呼ばれます。

もう一つは、財産管理権、子どもの財産の管理や、子どもを代理して契約などの法律行為を行う権利義務のことです。

これらの権利義務を、父母双方が持っていることになるのが共同親権です。

共同親権となったら、子どもに関することは基本的に、父母が話し合って決めることになります。法務省は国会で、父母の双方の同意が必要な例として、「幼稚園や学校の選択」「進学か就職かの選択」「転居先の決定」「生命に関わる医療行為」などを挙げています。

例外として、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や「教育などに関する日常の行為」は片方の同意がなくても、どちらかの親による単独での判断が可能です。

その具体的な事例として、法務省は「急迫の事情(期限の迫った入学手続き、緊急の手術、虐待からの避難 など)」「日常の行為(子どもの食事、習い事の選択、ワクチン接種 など)」を挙げています。

共同親権にするかは、どうやって決める?

まず父と母は協議によって、離婚後、共同親権にするか単独親権にするかを決めます。父母が協議で合意できない場合は家庭裁判所が判断することになります。

裁判所が決める際、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」のが原則です。

ただし、次のいずれかに該当するとき、その他の共同親権とすることにより、子の利益を害すると認められるときは、単独親権としなければならないとされています(改正民法819条7項)。

  1. 父親又は母親が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき
  2. 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受ける恐れの有無、父母の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき

例えば、DVや子どもへの虐待のおそれがある場合は、裁判所が単独親権にしなければならないとされています。父と母が話し合うことができない状態となり、共同で子どもの養育を行うことが困難な場合も単独親権になる可能性があります。

また、共同親権の影響を受けるのは、施行後に離婚する場合に限りません。すでに離婚している親やその子どもが、現在の単独親権から共同親権への変更を裁判所に申し立てることも可能になります。その際、裁判所はDVの有無や養育費の状況など、これまでの経緯を調べた上で、子どもの利益のために共同親権が必要かどうかを判断することとされています。

共同親権のメリットとデメリット

メリットについて

  1. 離婚後も両親で協力して子育てできる
    単独親権のもとでは、親権者である親が、子どもを育てる義務や責任をすべて一人で抱え込んでしまうケースは少なくありません。
    しかし、共同親権のもとでは両親に子どもを育てる義務や責任があるため、離婚後も協力して子育てできます。特に、これまで単独で子育てをしてきたシングルマザーの方にとっては、負担が多少なりとも減ることにつながると思われます。
  2. 面会交流・養育費の支払いがスムーズに行われやすい
    単独親権のもとでは、子どもとの関わりが制限された親は、子どもに対する愛情や責任感が薄れてしまい、養育費の不払いが起きるケースも少なくありません。 しかし、共同親権のもとにおいては両方の親に子どもと関わる権利があるため、面会交流がスムーズに行われやすくなるでしょう。頻繁に会うことができれば、離れて暮らす親も子どもへの愛情を持ち続けることができるため、養育費が滞りなく支払われることが期待できます。

デメリットについて

  1. 子供への負担が大きい
    子どもは離れて暮らす親に会うことに多くの時間を費やさなければならず、生活に負担がかかってしまうおそれがあります。
  2. 遠方への引っ越しが難しい
    定期的に面会交流をするためには、離婚した夫婦がある程度近くに住む必要があります。
  3. DVやモラハラから逃れられない
    単独親権のもとでは、親権者となった親が面会交流を拒否できるため、離婚することでDVやモラハラから逃れることが可能です。

しかし、共同親権が導入されることで、DVを裁判所から認定してもらえなかった等により共同親権が認められ、離婚してもDVやモラハラから逃れられなくなってしまうおそれがあります。

以上のデメリットについては、施行がまだ先のことであり、具体的な問題が実際に生じているわけではないので、あくまで懸念点として捉えていただければ、と思います。

まとめ

ここまで共同親権の説明をさせていただきましたが、あくまで大前提となる考え方は「子どもにとって最善の利益となる」ことです。

父母の協議で決めるにせよ、裁判所が決めるにせよ、子供にとって一番幸せな形で親権を定めてもらいたいですね。

また、シングルマザーの方々にとっては、今回の共同親権に関する改正法の施行により、離婚時や離婚後の対応なども大きく変わってくるものと思われます。なにか不安やトラブルなどが発生したら、一人で悩まず、ぜひ弁護士などの専門家にご相談ください。

アディーレ法律事務所奈良支店 弁護士 池田 昇右
https://www.official.adire.jp/profile/ikeda_shosuke/

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