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はじめに

新型コロナ感染拡大の影響による解雇や減収などによって、経済的に苦しむ方が増えています。

今年3月の報道によると、2020年1年間の生活保護申請件数は22万3,622件となり、前年に比べて1,672件(0.8%)も増加。コロナ禍における雇用情勢の悪化が、申請の増加につながったとみられています。

今回のコラムでは、命を守る“最後の砦”ともいうべき「生活保護制度」の概要や受給要件、ひとり親世帯の貧困問題などについて考えてみましょう。

ひとり親世帯の貧困について

ひとり親世帯のうち、実に半数近くもの世帯が、貧困状態にあることはご存知でしたか?

「2019年 国民生活基礎調査」によると、全世帯の相対貧困率(その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状況)は15.7%なのに対し、「子どもがいる現役世帯」のうち「大人が一人」の世帯の相対貧困率は48.3%に。また、各種世帯の生活意識を見てみると、「苦しい」と答えている割合が、「母子世帯」では86.7%にも上ります。 

新型コロナの影響がなくとも、主に仕事、家事、育児を一人で行わなければいけないひとり親家庭では、就労時間が限られてしまうことに加え、特にシングルマザーの4割程度は正社員ではなく、パート・アルバイトの非正規雇用で働いているため、収入が低くなってしまう傾向にあります。

(関連記事⇒シングルマザーの強い味方!法律扶助&公的支援を賢く活用しよう)

「生活保護制度」とは?

「生活保護制度」とは、やむを得ない事情で働くことができない人や生活できるだけの収入が得られない人たちに対して、生活の困窮の程度に応じた必要な保護を行い、最低限度の生活ができるよう支援し、自立を助長する仕組みのことです。

簡単にいうと、生活に困窮している人に対して、国が当面の生活費を援助してくれるという制度です。

日本国憲法第25条第1項にある「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するため、「生活保護法」に基づいて運用されています。

受給要件やもらえる金額は?「生活保護制度」の気になる疑問

どんな要件を満たせば、受給できるの?

生活保護を受けるためには、主に4つの要件があります。

  1. 世帯収入が「最低生活費」に満たない(世帯収入<最低生活費)
    生活保護は「世帯単位」で行われるものなので、自分の収入が減ったとしても、同居の家族に収入があり、それらの収入を合算した場合に最低生活額を上回ると、保護の対象にはなりません。
  2. 資産がない
    持ち家があっても生活保護を受けることは可能です(高額な場合は売却を指導されることがあります)。また、自家用車を持っている場合も、「価値が低い」、「公共交通機関がない」、「早朝深夜の通勤に必要不可欠」などの理由や事情があれば、生活保護を受けることができます。
  3. 病気やケガなどにより、働きたくても働けない
    給料が最低生活費より安い場合は、働いていたとしても生活保護を受けることができます。
  4. 援助をしてくれる親族や身内がいない

つまり、収入が低いというだけにとどまらず、資産、能力、親族による扶養など、自分が利用できるあらゆるものを活用することが条件です。

生活保護が認められるかどうかはケースバイケースの判断になりますが、「貯金や年金、車や土地といった資産がない」、「病気や障害などが原因で、働きたくても働けない」、「児童扶養手当などの公的支援を活用しても、生活が苦しい」、「親族からの援助が受けられない」という場合は、保護が必要だと判断される可能性が高くなります。なお、仕事や借金の有無は関係ありません。

生活保護を申請すると、申請者の親族あてに「この方が生活保護の申請をしたのですが、あなたは援助が可能ですか?」という確認を取る、「扶養照会」が行われます。

これまでも、DVや虐待等で連絡をされると危険な場合や相手が音信不通の場合、親族が未成年者や高齢者などで明らかに援助ができない場合は、扶養照会を行わないように運用されてきました。

そして今年3月、申請者が照会を拒否する場合は、特に照会を行わないようにすべき事情がないか丁寧に聞き取りを行うよう、運用が大きく改善されたのです。

親族に連絡が行くことを不安に思う方は、扶養照会を止めてもらえる場合がありますので、まずは相談してみましょう。

生活保護を受けたら、具体的にどうなるの?

生活保護が認められると、必要に応じて、下記の8種類の扶助が支給されます。どんなものなのか、主な内容を簡単にご説明しましょう。

生活扶助

食費、被服費、光熱費など、日常生活を営むうえで必要な費用です。次の3つの要素から計算されます。

  • 生活扶助・第1類費:世帯の各個人に支給される生活費(年齢により支給額が異なる)
  • 生活扶助・第2類費:電気代や水道代など、世帯全体のために支給される生活費
  • 加算費:身体障害者、母子家庭、妊婦等を対象に特別に加算されるもの

住宅扶助

アパートの家賃などの住宅費です。規定範囲内での実費支給となり、上限額は居住地域や世帯人数によって決められています。

  • 家賃・間代等:家賃や転居時の敷金、契約更新料など
  • 住宅維持費:家屋の改修費、畳・建具の修理費など(必要と判断された場合に支給)

教育扶助

義務教育を受けるために必要な学用品費です。規定の基準額を支給されます。

  • 実費:正規の教科書代、給食費、通学交通費など
  • 基準額:文房具、学用品、帽子、上履きなどにかかる費用
  • 学習支援費:教科書以外の教材や課外クラブ活動のために必要な費用

医療扶助

病院等における医療サービスにかかる費用です。医療機関に直接支払われるため、本人負担なく医療機関の利用が可能です。

介護扶助

介護保険サービスにかかる費用です。介護事業者に直接支払われるため、本人負担なく介護施設の利用が可能です。

出産扶助

分娩、検査、病室などにかかる出産費用です。規定の範囲内で実費支給されます。

生業扶助

就労に必要な技能の修得等にかかる費用です。規定の範囲内で実費支給されます。

  • 生業費:生活の維持を目的とした小規模な事業を行うための資金
  • 技能修得費:生業に就くための技能・資格修得にかかる授業代、教科書代など
  • 高等学校等就学費:高校などの就学に必要な費用
     ・実費:教材代、交通費など
     ・基本額:学用品の購入代など
     ・学習支援費(クラブ活動費)
  • 就職支度費:就職が決まった人に支給される、就職のために必要な被服費や初任給までの通勤費など

葬祭扶助

 葬祭料や読経料などの葬祭関連費用です。規定の範囲内で実費支給されます。

どれくらいの金額がもらえるの?

生活保護が認められるのは、収入が最低生活費に満たない場合なので、生活保護費の受給金額も「最低生活費」(生活扶助+住宅扶助の額)が基準となります。

そのため、受給する生活保護費は、収入がない場合は【最低生活費の額】、収入がある場合は【最低生活費―世帯収入】が生活保護費となることが多いです。

具体的な金額は、居住地や年齢、家族構成によって異なります。

おおよその金額をシミュレートできるサイトもありますが、正確な金額を知りたい方は、福祉事務所に相談してみましょう。

なお、申請から受給まで2週間~1ヵ月程度かかり、支給決定がされたときは申請日にさかのぼって支給が行われます。

生活保護費の支給まで時間を要しますので、それまでの間の生活が厳しいという方は、「生活福祉金貸付制度」の利用などを検討するのも一つの手です。

受給期間に制限はあるの?

「福祉事務所の指示に従わなかった」、「失踪した」などの問題がなければ、受給期間を制限されることはありません。

最低生活費に満たない状況が続き、保護が必要だと認められる限りは、生活保護費を受給できます。

まとめ

日本では、生活保護にマイナスのイメージを持っていたり、利用することに不安や葛藤があったりと、受給資格があるにもかかわらず、8割の方は利用していないそうです。

人生うまくいくときばかりではありません。

生活保護は、生活に困ったときの支援となる、すべての国民のための大切な制度であり、人生を立て直すきっかけを作ってくれるものです。

特に今は、新型コロナの影響で働きたくても働く場所も見つからないという方も増えていますが、シングルマザーの方は、子どもや家族を守るために無理をしてしまいがちです。

困ったときのセーフティネットはたくさんありますので、状況に応じて生活保護制度や手当などを賢く利用してほしいと思います。

何かしらのご事情によって生活がままならないという方は、各市区町村の相談窓口や弁護士などにぜひ相談してみてくださいね。

アディーレ法律事務所 弁護士 正木裕美
https://www.adire.jp/profile/masaki_hiromi/

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日本シングルマザー支援協会より

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