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はじめに

昨年6月に「改正労働施策総合推進法」(通称「パワハラ防止法」)が施行され、職場におけるパワハラを防止するための措置が義務づけられてから1年が経過しました(中小企業は努力義務、来年4月から義務化)。しかし、「ハラスメント対策がなされていない、不十分だ」という指摘も多く上がっています。

職場でハラスメント被害を受けても、これからの仕事や人間関係のことを考えてしまいますし、「そもそもこれってハラスメントなのかな?」、「自分の自意識過剰では?」など、心配や不安は尽きず、声を上げるのは簡単ではありません。特に、シングルマザーの方々は、大黒柱であったり、非正規雇用など収入面で不安を抱えていたりする方も多く、我慢してしまいがちかと思います。

ハラスメントは人権を侵害する行為ですし、苦痛に思うだけではなく、精神疾患に罹患するなど心身に重大な影響をおよぼす危険をはらんでいます。さまざまなハラスメントがありますが、今回は、職場で起こりがちな「パワーハラスメント(パワハラ)」と「セクシャルハラスメント(セクハラ)」について知り、被害を受けてしまったときにどう対応するべきか考えます。

これは「パワハラ」?それとも「指導」?

そもそもパワハラとは何でしょうか。

厚生労働省では、職場のパワハラとは、「同じ職場で働く者に対して行う」、

① 優越的な関係を背景とした言動であって、

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

③ 労働者の就業環境が害されるもの

と定義づけ、この①から③までの3つの要素をすべて満たすものをパワハラとしています。表現が難しいので、少し詳しく説明します。

「同じ職場で働く者に対して行う」とは

「同じ職場」、「労働者」というと、「対象が会社のなかでの言動だけ」、「保護されるのは正社員だけ」と感じられるかもしれませんが、これは誤りです。

懇親会や出退勤の移動中など、業務時間外であっても「職場」とみなされますし、正社員だけでなくパート従業員・派遣社員・出向社員なども幅広く「労働者」に含まれます(セクハラも同様)。

「① 優越的な関係を背景とした言動」とは

「優越的な関係」というと、上司から部下に対する暴言など、“年齢や地位が上の者が下の者に対して権力を振りかざして苦痛を与える言動”といったイメージが浮かぶと思います。

しかし、もっと広い「地位の優位性」を背景としたものが対象で、専門性や経験、学歴などの優劣を広く含んでいますので、部下から上司に対するパワハラも、同僚間のパワハラもあります(PCの知識が豊富で技術に長けた部下が、機械に疎い上司を見下す、バカにして無視するなど)。一般的には「逆パワハラ」とも呼ばれたりしますが、法的には立派な「パワハラ」です。

「② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは

要は、仕事と関係のない言動や、仕事だとしてもやり過ぎな言動です。

たとえば、仕事で失敗して厳しく叱責されることもあると思いますが、叱責や指導のすべてが違法なパワハラとなるわけではありません。業務とパワハラの線引きは難しく、ケースバイケースの判断になりますが、「ミスなどの理由もないのに叱責をする」、「『バカ』、『アホ』など人格否定を含む言動がある」、「些細なミスを人前で繰り返し叱責・罵倒される」などの場合は、パワハラとされる可能性が高いと考えられます。

近年、モンスター社員やパワハラ・ハラスメント(パワハラに当てはまらないような些細なことに対して「パワハラだ」と過剰に取り上げること)と言われるような、正当な業務命令やミスに対する叱責=「パワハラだ」と過剰に反応して、逆に相手に対するパワハラを行うといったケースも存在しています。パワハラという言葉が根付いてきた現れでもあるかもしれませんが、正しい知識を持つことの大切さを示しているように思います。

「③ 労働者の就業環境が害されるもの」とは

これは、ある言動によって、身体的または精神的に苦痛を感じ、職場環境が不快となったために能力の発揮に重大な影響が生じるなど、一般の労働者が仕事をするうえで、看過できない程度の支障が生じることといいます。

被害の程度についての感じ方は人それぞれですが、パワハラの判断は、被害者の主観ではなく、社会一般の労働者を基準として客観的に判断される、ということです。

 パワハラになるのはどんな言動?

厚労省では、パワハラの典型例として、次の6類型を挙げています。ただし、これらはあくまで「典型例」であり、①から⑥に該当しない=パワハラではない、という意味ではありません。

① 身体的な攻撃

体に危害を与えるもの
例)殴る・蹴る、物を投げる、飲酒を強要するなど。
暴行罪、傷害罪などの犯罪も成立する可能性があります。

② 精神的な攻撃

暴言や度が過ぎた叱責、罵倒など
例)「バカ」、「仕事ができない」などの暴言、「頭がおかしい」などの人格否定(性的指向や性自認に対する侮辱的な言動含む)、わざとらしくため息をつくなど言外に威圧を与える行為、必要以上に長時間の厳しい叱責、人前での大声での威圧的な叱責など。
脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪などとなる可能性もあります。

③ 人間関係からの切り離し

隔離、仲間外れ、無視などの行為
例)会議などに参加させないなど仕事から外す、合理的理由もなく別室に隔離する、 必要な資料を渡さない、無視して孤立させるなど。

④ 過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
例)時間的・物理的に到底終わらない量の業務やノルマを強要する、業務に関係ない私的な雑用(上司の家の掃除など)を命じるなど。

⑤ 過小な要求

業務上の合理性がないのに、能力や経験からかけ離れた、程度の低い仕事を命令すること、仕事を与えないこと
例)気に入らない者・辞めさせたい者に仕事を与えない、誰でもできる仕事(お茶くみやコピー等)ばかりやらせるなど。

⑥ 個の侵害

私的なことに過度に立ち入ること、プライバシー侵害
例)恋人や家族のことなどプライベートをしつこく詮索する、個人情報をほかの従業員に暴露するなど。

これらは極端な例のため、パワハラだろうと予測しやすいと思います。しかし、仕事のなかで自分が苦痛に思ったとしても、パワハラかどうかは具体的な状況に応じたケースバイケースの判断になります。たとえば、自分の能力より少し高いレベルが求められる仕事を指示されて、しんどい思いをしたとしても、教育、人材育成の観点から必要かつ相当な業務と判断され、パワハラ(④過大な要求)には該当しないと考えられます。ハラスメントかどうか判断が難しいときは、まず弁護士などの専門家にご相談いただければと思います。

これは「セクハラ」?それとも「コミュニケーション」?

次に、性的な嫌がらせである「セクハラ」について考えてみましょう。

そもそも職場におけるセクハラとは、
「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることをいいます。

「労働者の意に反する」とは?

意に反するかどうかは被害者の主観も重視するものの、平均的な女性労働者、男性労働者の感じ方も基準として判断がされます。

「性的な言動」とは?

性的な内容の発言(「胸のサイズ何カップ?」、「下着の色は?」、「〇さんって、××なプレイが好きらしいよ」など性的な事実関係を聞く、性的な冗談をいう、食事やデートにしつこく誘うなど)や、性的な行動(性的関係を強要する、不必要な身体への接触、ヌードなどわいせつ画像の掲示など)をいいます。

「労働者の対応により労働条件について不利益を受ける」とは?

たとえば、「性的な関係を求められたが、拒否したら解雇された」というように、意に反する性的な言動を拒否したり、抵抗したりしたために、解雇、降格、減給、配置転換、契約更新拒否などの不利益を与えられることをいいます(対価型セクハラ)。

「就業環境が害される」とは?

これは、意に反する性的な言動により、就業環境が不快なものとなったために、能力 の発揮に重大な影響が生じるなど、仕事をするうえで看過できない程度の支障が生じることをいいます(環境型セクハラ)。

たとえば、「不必要に身体に触れられることが苦痛で就業意欲が低下した」、「PCのスクリーンセーバーに設定された性的な画像や職場に貼られたヌードポスターに苦痛を感じて、仕事に専念できない」などの状況が該当します。

異性に対するものだけが対象?

男性から女性に対する性的言動はセクハラと認識されやすいですが、実は性別による差はありません。女性から男性にされるもの(一般に逆セクハラとも呼ばれるもの)、同性に対するものや、LGBTQともいわれるさまざまな性自認や性的指向を持つ方に対するものも、もちろんセクハラの対象です。

同性同士だとありがちですが、過度な身体接触や、恋愛体験をしつこく聞き出すなどの行為にも注意しましょう。

「男女雇用機会均等法」では、事業主に対し、対価型セクハラ、および環境型セクハラの防止措置を講じることが義務づけられています。

なお、パワハラの説明部分でも述べたとおり、就業時間外での言動であったり、正社員以外の雇用形態であっても対象になります。

ハラスメントを受けたとき、どうすればいい?

最初にも述べましたが、パワハラやセクハラは、心身に重大な影響をおよぼす危険性をはらんでおり、人権を侵害する許されざる行為です。

被害を受けてしまったあと、“どうしたいのか”によりさまざまな相談先があります。

「セクハラかどうかわからない」、「悩みを聞いてほしい」というときは、女性の人権ホットラインや人権110番などの相談先があります。

軽微な事案で、会社が信頼できるのであれば、社内に設置されたハラスメント通報窓口、人事担当部門、上長などに相談するのがよいでしょう。

会社に相談したけれど適切な対応をしてもらえない場合は、「男女雇用機会均等法」がセクハラを禁じていますので、労働局の雇用環境均等室への相談もできます。

さらに、ハラスメントは違法行為です。加害者や会社に対するハラスメント行為の差し止めや慰謝料をはじめとした損害賠償請求、刑事告訴などの対応を取ることができる可能性があります。「セクハラかどうかわからない」、「どのような法的対応が可能か知りたい」、「重大な事案で自分での対応は困難」、「会社が対応してくれない」などの場合は、ぜひ一度弁護士へご相談ください。

このように、目的によってさまざまな相談窓口がありますが、密室で行われることも多いハラスメントは、相手が素直に非を認めず、言った・言わないの水掛け論になりがちなので、問題の解決に向けて「証拠」がとても重要になります。

録音・録画・写真による記録、書面・メール・SNSの保存、診断書など、客観的にハラスメントを証明できる証拠を集めておくとよいでしょう。

ただし、必ずしもこのような証拠が集められるとは限りません。自分で作成した日記、業務日誌、メモなども証拠になりますので、被害を受けたときに、その都度、自分の手書きで、「いつ、どこで、誰が、何をしたか」、「それを誰が見聞きしたか」、「会社の対応」など、出来る限り詳細かつ具体的に事実関係を残しておきましょう。

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まとめ

2019年に国際労働機関(ILO)で、暴力やハラスメントのない環境で働くことは人権であるという考えに基づき、職場での暴力やハラスメントそのものを全面禁止する、初めての国際条約が採択されました。しかし、「パワハラ防止法」の規制は条約の求める厳しい基準にまったく達していないため、ハラスメントを全面的に禁止する実効性のある法整備が求められており、日本はハラスメント対策後進国というべきでしょう。

パワハラ・セクハラは、ときに「これぐらい、指導の一環として受け入れるべきではないか」、「これぐらいでセクハラだなんて大げさだ」などと言われてしまうこともあります。特に、シングルマザーとして働いて子育てをしている方々は、「表沙汰にすることで会社にいづらくなるのでは」と恐れ、相談できない方も多いのではないでしょうか。日本はハラスメント後進国とはいえ、先に述べたとおり、ハラスメント問題の解決に向けたさまざまな相談窓口が設けられています。我慢し続けることでさらに被害が深刻になってしまうことがありますし、相談することは将来的にほかの人を救うことにも繋がりますので、一人で抱え込まず、気軽に相談窓口をご利用ください。

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日本シングルマザー支援協会より

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