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はじめに

平成28年に行われた厚生労働省の調査によると、母子世帯のうち、離婚した父親から養育費を現在ももらっているという回答は24.3%にとどまり、一度も養育費もらったことがないとの回答は約60%にものぼっています。さらに、半数以上の方(54.2%)が「養育費の取り決めをしていない」と回答しています。しかし、養育費は、親の生活が苦しくて余裕がなくても、資力に応じて、自分と同じ生活水準を維持できるだけの金額を支払わなければならない(自分の生活レベルを落としてでも払わなければいけない)とされるもので、仮に自己破産した場合でも支払い義務はなくならない、相当に重い義務なのです。そして、その養育費の未払いを防ぎ、支払いをよりスムーズにするのが「公正証書」です。今回は、「公正証書」について、その基礎知識や作成メリットなどを学んでいきましょう。

「公正証書」の基礎知識

公正証書とは、公証人が、契約の成立や一定の事実などについて作成し、その内容を証明する文書のことをいい、全国に約300ヵ所にある公証役場で作ることができます。公証人には、元裁判官や元検事など法律実務に精通した専門家が任命されているので、高い信頼性と強い効力が認められています。

特に覚えておいていただきたいポイントは、”公正証書は、「お金」に関する取り決めで非常に強い効力を発揮する”ということです。たとえば、養育費や離婚の財産分与・慰謝料などのお金に関する取り決めについて、「強制執行認諾文言」が記載された公正証書を作成した場合、支払いが滞った際には、裁判所の手続を経ずに強制執行(相手の給料や預貯金の差押えなど)ができるようになります。時間と裁判費用をかけずに回収が可能となるだけでなく、「給料等の差押えは自分の信頼にかかわるので滞納できない」と、相手に心理的プレッシャーをかけることにもつながるのです。これに対して、普通の合意書・契約書などの書面しか作成していない場合、裁判などの裁判所の手続を経てからでなければ強制執行ができません。

養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割など離婚に関する取り決めをする「離婚給付等契約公正証書」(離婚公正証書)の作成方法は、後ほど詳しくご説明します。

離婚以外でも活用できる

お金に関する強い効力というメリットに加え、公正証書は、専門家である公証人が、確認資料をもとに本人の身元確認をしたうえで、内容に法律違反がないか、内容に異論はないかなど、慎重に確認を取りながら作成されるため、裁判でも高い信頼性が認められています。相手が、「そんな内容の取り決めはしていない」、「偽物だ」、「契約は法律違反で無効だ」などと主張して争いになった場合でも、裁判所では公正証書どおりの内容で取り決めがなされたと認められることが大半です。さらに、原本が公証役場に20年間保管されるので、紛失・改ざんの心配もありません。

そのため、離婚公正証書だけでなく、遺言、金銭消費貸借契約(お金の貸し借り)、任意後見契約(将来自分が認知症などにより判断能力が低下した場合に後見人になってもらうもので、公正証書作成が必須)など、さまざまな場面で公正証書が作成されています。

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「公正証書」の具体的な作成方法

公正証書は、個人で勝手に作成することはできず、公証役場で公証人に作成してもらいます。先に述べたとおり、公証人は法務大臣が任命した公務員で、原則として元裁判官や元検事など、法律実務の経験が豊かな人たちです。公証役場では無料相談を実施しており、どのような内容の公正証書にするか相談することができます。

ここでは、公正証書作成の一連の流れを、離婚公正証書を例にご紹介します。

(1) 離婚に関する公正証書は、何について決めることができるかを知る 

公正証書には、法律に反する内容や公序良俗に反する内容でない限り、記載ができます。離婚公正証書では、一般的に、離婚に合意したこと、子どもの親権者や監護権者、養育費、面会交流、離婚の財産分与や慰謝料、年金分割などを記載します。

ところで、最初に、“お金に関しては、公正証書には裁判をしなくても強制執行ができる強い効力がある”と述べましたが、強い効力を持つ公正証書にするための注意点が2つあります。

① 支払い金額と支払い日などがはっきり決まっていること 

公正証書を読んだときに、払うべき金額、支払い期限(始期と終期)がはっきりわかるような記載でなければなりません。

たとえば、「給料の手取りの○%」、「大学の入学金」など金額が変動するような記載、「大学を卒業するまで」など終期がはっきりしない記載(浪人などで変動する)の場合、強い効力は認められず、公正証書による強制執行はできません。

②「強制執行認諾文言」が記載されていること 

さらに「債務者は、本契約上の金銭債務を履行しないときは、ただちに強制執行に服する旨陳述した」というような一文(強制執行認諾文言)が記載されていることが必須です。これが記載されていないときは強い効力は認められず、原則どおり、裁判手続により請求を認めてもらってから強制執行しなければなりません。

(2) 具体的内容を当事者同士で合意する

離婚公正証書は、要は離婚協議書ですから、一方的に勝手に作ることはできず、当事者同士で内容について合意する必要があります。内容について、公証役場に無料で相談することもできますが(相談段階では1人でも可)、公証人による公証相談は公正証書の作成に関する相談であり、養育費や財産分与の調査や算定などをしてくれるわけではないので、内容については元夫と事前に協議・合意しておかなければなりません。

離婚条件の協議や公正証書の作成は弁護士でも可能ですが、ご自分で行う場合でも、損をすることや合意内容に漏れが出てトラブルになることのないよう、あらかじめ弁護士などの専門家へご相談されるのもよいと思います。

元夫との協議がまとまり内容が決定したら、公証人に内容を伝えやすくするため、箇条書きでもよいのでメモにまとめておきましょう。

(3) 必要書類を準備する

作成内容に応じた資料を公証役場に提出する必要があります。 

(4)の予約後でも可能ですが、取得に時間がかかる資料が含まれていることがあるので、公正証書を作成する予定の公証役場に事前に連絡をして、必要書類を確認して準備をすすめておくとスムーズです。

必要書類は公証役場によっても異なるので、利用する公証役場に必ずご確認いただきたいのですが、一般的には、

本人確認資料:実印と印鑑証明書、運転免許証と認印など

戸籍謄本(婚姻関係と子どもの確認)

財産分与:登記事項証明書、固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書預金通帳

年金分割:年金分割年金手帳の写し、年金分割のための情報通知書

などが必要になります。

なお、印鑑証明書などの公的証明書は、公正証書作成日から3ヵ月以内のものが必要なので、直前に取得するのがよいでしょう。

(4) 近くの公証役場へ予約を取る

電話、メール、ネットなど公証役場によって方法は異なりますが、事前予約が求められることが多いです。

ただ、最初の予約日に公正証書が作成されることは現実にはまずなく、⑥の公証人との相談・面接を行う日となります。この面接日の対応は夫婦の片方だけでも可能ですが、内容に誤りがでないよう、夫婦2人で行ける日のほうがよいでしょう。

公証役場の事務状況によって作成スケジュールが変わってきますので、近くに複数の公証役場があるときは、それぞれの作成日程を確認するのもよいでしょう。

(5) 2人で公証役場に行き、公証人と面接を行う

公証役場には、受付日と作成日の2回は行くことになります。

1度目の受付日は、公証人と面接を行い、必要書類を提出し、書いてほしい内容を伝え、確認を行います(相談は片方だけでも可能ですが、夫婦そろって行くのが良いでしょう)。後日、公証人が公正証書の原稿を作成してくれますので、FAXなどによる原稿の修正・確認を経て、最終稿を決定します。公証役場の状況などにもよりますが、作成まで数週間かかることもあります。

なお、(1)で金額などの内容がはっきり書かれていることが重要だと述べました。夫婦の事情を一切知らない裁判所が、公正証書に書かれた文字だけを見て強制執行を認めるか判断するので、文言の一言一句がとても重要なのです。実際、書かれた文言だと2つの意味にとれてしまうなど、内容が曖昧であるとして強制執行を認めなかった例も少なからずあります。担当の公証人が強制執行実務にあまり携わってこなかったという場合もありますので、お金をかけて公正証書を作ったのに強制執行ができない事態を防ぐために、最終稿決定の前に弁護士などの専門家に内容を確認してもらうようとよいでしょう。

(6) 公正証書の作成

最終稿が確定すると、予約した作成日に夫婦2人で公証役場に行き、公正証書の作成作業を行います。公正証書の内容を確認し、その内容でよければ、双方が署名押印をし、その後手数料を現金で支払います。

公正証書を作る際に必要な費用

公正証書の作成には、手数料がかかります。

作成する公正証書の種類によって手数料の計算方法が異なりますが、離婚公正証書の場合、下記の①から④の合計額が手数料となります。

① 慰謝料と財産分与の合計額から算出された手数料

② 養育費の金額から算出された手数料(10年を超える場合は10年分までで計算)

③ 年金分割の手数料11,000円

④ 公正証書原本・正本・謄本の用紙代(1枚あたり250円)の合算額が手数料

離婚公正証書の場合、数万円はかかると覚悟していただいたほうがよいと思います。①~③の項目を減らせば費用は抑えられますが、スピーディーな回収が望めなくなったり、定めなかった内容について後日トラブルになるおそれがあり、本末転倒になってしまいますので、費用が増えてしまうとしても、定めるべき内容をしっかり定めておくほうがよいでしょう。

また、ご自分での対応が難しい場合、元夫との協議や公正証書作成を弁護士に依頼することはもちろん可能ですが、公正証書作成手数料以外に弁護士費用がかかってしまいますので、費用全体を確認し、対応をご検討いただくほうがよいと思います。

(公正証書作成の手数料)

証書の作成 目的の価値 手数料
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1,000万円まで 17,000円
3,000万円まで 23,000円
5,000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円
以下超過額5,000万円までごとに、
  3億円までは13,000円
  10億円までは11,000円
  10億円を超えるものは8,000円 を 43,000円に加算

(計算例)

子供1人(3歳) 養育費 30,000円/月(20歳まで)
財産分与・慰謝料として200万円を支払うという内容の公正証書の場合

養育費(30,000円×12ヶ月×10年間=360万円)
         360万円…手数料 11,000円
財産分与・慰謝料 200万円)…手数料 7,000円
合計   手数料 18,000円

※このほかに公正証書原本・正本・謄本代が3,000円程度(枚数1枚あたり250円)かかります。

参考:松戸公証役場ホームページ(https://www.matsudo-koshonin.jp/fee/index.html

未払いは絶対に防ぎたい!保証人をつけることはできる?

「元夫の収入が不安定」、「十分な資産や収入がない」、「ちゃんとお金を払う人ではない」など、養育費の支払いに不安がある場合、「保険として連帯保証人を付けてほしい」と思われるかもしれません。法的には、離婚条件を理解したうえで連帯保証人の引受けを了承してくれる人がいるのであれば、連帯保証人を付けることは可能であり、現実には元夫の親などの親族がなることが多いです。

連帯保証契約は、法律上必ず書面で契約を結ぶ必要がありますので、連帯保証契約も公正証書に盛り込み、連帯保証人となる方に、公証役場の受付日と作成日に来てもらうようにしましょう。

ただし、連帯保証人が亡くなった場合、連帯保証債務は相続されないので、生存中限定の連帯保証となります。公証役場、公証人によっては、連帯保証人を付けることに難色を示すことがあるので注意が必要です。

離婚後でも作成することは可能?

離婚公正証書を含む離婚協議書は、離婚前に作成することをおすすめしてきましたが、離婚後でも作成は可能であり、元夫と協議して作成をする流れに変わりはありません。

ただし、離婚慰謝料は離婚から3年で、過去の養育費は支払い期日から5年(離婚協議、口頭での定めの場合)で時効を迎えてしまいます。ただし、時効を迎えてしまった分について元夫が時効を主張せず、支払いを了承してくれるのであれば、支払ってもあらうことは可能なので、過去の分の支払いを交渉することは問題ありません。

一方、財産分与と年金分割の請求は離婚から2年で除斥期間にかかってしまいます。こちらは元夫の意思にかかわらず、期間を過ぎると権利自体が消滅してしまい、原則として請求ができなくなってしまいますので、取り決めを望むのであれば期限内に行いましょう。

まとめ

平成28年の厚労省の調査では、養育費の取り決めをしなかった最大の理由として、「相手と関わりたくない」、「相手に払う能力がないと思った」を挙げた方が半数を占めました。しかし、養育費をもらうことは「子どもの権利」であり、親が勝手に放棄することは認められていません。公正証書の作成により取り決め内容が明確になり、高い信頼性を持ちますし、多くの方が直面している養育費不払いに陥ってしまっても、スピーディーかつ少ない費用で強制執行できる大きなメリットがあります。作成費用は決して安くはないものの、費用対効果は高いのではないでしょうか。子どもの大切な権利を守るため、さらにお金に関する契約や遺言など、人生の様々な場面で公正証書を活用していただければと思います。

アディーレ法律事務所 弁護士 正木裕美
https://www.adire.jp/profile/masaki_hiromi/

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#35 保存版!!離婚の教科書②
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日本シングルマザー支援協会より

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