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はじめに
離婚をすると原則として旧姓に戻ることになりますが、自分自身がすでに結婚していたときの姓で長く働いているなどの事情から、離婚後も婚姻時の姓を名乗りたいと思う方も多くいらっしゃいます。
今回は、離婚後の姓や戸籍に関する法律の決まりを解説いたします。
離婚したら、苗字はどうなるの?
夫婦同姓を強制する日本
日本では、結婚時にどちらの姓を名乗るか選択し、同じ姓を名乗らなければならないとされ、現実には約96%のご夫婦が夫の姓を選択されています。しかし、通称使用が認められる場面も増えてきたものの、「改姓すると、多くの事務的手続が必要で大変負担が大きい」、「アイデンティティの喪失を感じる」、「結婚前とのキャリアの断絶」、「正式な書類や手続では通称が使えない」などの理由から、夫婦別姓にするために事実婚を選択する方も増えています。夫婦同姓を義務づけているのは先進国では日本だけであり、選択的夫婦別姓制度(結婚時の姓を一緒にするか、お互いに結婚前の姓を名乗り続けるか、本人たちが選択できる)の議論が高まってきてはいますが、今でも夫婦別姓は認められていません。今年6月、選択的夫婦別姓を認めないのは違憲だと争っていた事件で、最高裁は再び合憲だと判断しており、制度を導入するかどうかはこれからの国会の議論によらざるを得ないという状況が続いています。
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離婚した場合の原則
婚姻時に姓を変えた方は、離婚時には原則として婚姻前の姓に戻ることになります(法律上、「復氏」といいます)。
しかし、子どもの姓と離婚や親権者が誰かということは当然に連動しておらず、たとえ親権者が母親で、母親が旧姓に戻ったとしても、子どもの姓は変更されません。
つまり、結婚時の姓を「A山」としていた夫婦が離婚し、離婚時に親権者を母親(旧姓B村)とした場合、離婚により、母親は旧姓B村に戻りますが、子どもの姓はA山のまま変わらないので、一緒に暮らしていても母子で姓が違う状態になるのです。
離婚後も、婚姻時の姓を名乗ることが可能
離婚して旧姓に戻って人生をリスタートしたいという方もいますが、「結婚生活が長いので婚姻時の姓のままの方が生活しやすい」、「子どもの姓を変えたくないが、一緒に暮らすから同じ姓にしたい」などの理由から、離婚後も婚姻時の姓を名乗ることを希望される方もいます。離婚後も婚姻時の姓を名乗り続けることを「婚氏続称」といい、離婚後3ヵ月以内に、役所に「離婚の際に称していた氏を称する届」という書類を出すことで、比較的簡単に婚姻時の姓を引き続き使用することができます。離婚届と一緒に届出をすることも可能です。先ほどの例でいえば、旧姓B村に戻った母親は、婚氏続称届を出すことで、離婚後の姓をA山にすることができるのです。
しかし、この3ヵ月の期限を超えてしまうと、家庭裁判所に「氏の変更許可の申立て」を行い、やむを得ない事由(姓の変更をしないと社会生活で著しい支障をきたす場合)があるとして許可をもらわなければ姓を変更できません。いったん婚氏続称を選んだあとにやはり旧姓に戻したいという場合も同じです。姓は個人を識別するために重要なものであり、後に述べるように、戸籍は姓をベースに作られているので、このような厳重な扱いがされています。
なお、コラムの最初に、“離婚すると旧姓に戻る”と説明しましたが、離婚で戻れる旧姓は「1つ前の旧姓のみ」です。先ほどの例で、旧姓B村さんが、一度目の離婚後、婚氏続称届をして姓をA山にしたあと、再婚をして、新たな夫の姓C川を名乗ることにしたとしましょう。夫C川と2度目の離婚するときに戻れる姓は、旧姓B村ではなく、1つ前のA山なのです。つまり、1度目の離婚で旧姓B村に戻さないと、再婚後にもともとの旧姓に戻れなくなってしまいます。どうしても旧姓B村に戻りたいときは、家庭裁判所で氏の変更許可をもらうことができれば可能です。近年許可が認められやすい傾向にはありますが、絶対ではないので、最初の離婚時に旧姓に戻すのが一番簡単な方法です。
離婚後の姓をどうするかにはさまざまなメリット・デメリットがありますので、離婚前に検討されることをおすすめします。
子どもを母親の旧姓にするには?
先ほども述べたとおり、離婚しても、子どもの姓は婚姻時の姓のままです。しかし、子どもだけ元夫の姓のままというのは心情的に納得できなかったり、一緒に暮らすうえで不便だったりしますよね。
このようなときは、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立て」を行い、家庭裁判所の許可をもらって、子どもの姓を自分の旧姓に変更することになります。未成熟の子どもの姓を一緒に暮らす親の姓と合わせたいという場合は、原則として変更が認められています。
同じ戸籍に入るには、同じ苗字でなければならない
戸籍は同じ姓の人しか入れない
離婚時に姓と同じく気になるのが、戸籍だと思います。そもそも制度上、戸籍は、”同じ姓の”夫婦と未婚の子どもを単位に作られています。
母親のB村さんが父親のA山さんと結婚して姓をA山とした場合、結婚時に父親を筆頭者とするA山の戸籍が作られ、生まれた子どももこの戸籍に入ります。
そして、離婚すると、母親は自分の両親B村の戸籍に戻るのが原則ですが(「復籍」といいます)、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作ることも可能です。離婚届には、元の戸籍に戻るか、新戸籍を作るかのチェック欄がありますので、親の戸籍に戻りたくない方はチェックを忘れずに。
婚氏続称により離婚後もA山を名乗ることにしたときは、姓が違うので自分の両親の戸籍には戻れず、新しい戸籍が作られます。
では、離婚すると子どもの戸籍はどうなるのでしょうか。姓の場合と同じく、離婚は子どもの戸籍に当然に影響するわけではなく、子どもはもともとの戸籍、つまり父親の戸籍に残ったままになります。
子どもを自分の戸籍に入れるには
でも、元夫の戸籍に子どもが入ったままというのは納得しがたい方も多いと思います。どうしたら同じ戸籍に入れるのでしょうか。同じ戸籍に入れるかどうかのポイントは、「同じ姓であること」に尽きます。
まず、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に、子どもの姓を母親の姓に変更する「子の氏の変更許可申立て」を行い、裁判所の許可をもらいます。申立人は子ども本人です(子どもが15歳未満の場合は、親が代理人として行う)。許可がもらえて審判書謄本が届いたら、必要書類とともに本籍地の市町村役場で入籍届を出すことで、母親の戸籍に子どもを入れることができます。
婚姻時の姓を名乗り続ける場合の注意点
婚氏続称をすれば、離婚後の姓は、子どもと同じ「A山」なので、家庭裁判所の許可はいらず、入籍届だけすればよいと思いますよね。
でも、「婚姻時の姓」と「婚氏続称で名乗る姓」は、文字も読み方もまったく同じなのですが、法的には別の姓と扱われています。ですから、そのままでは同じ戸籍に入ることはできず、子どもの姓(A村)を母親の姓(A村)に変更したうえで入籍届をすることで、初めて同じ戸籍に入れることになるのです。
このように、離婚後に子どもを自分の戸籍に入れるためには、離婚後の姓が旧姓でも婚姻時の姓でも同じ手続が必要になりますので、ご注意ください。
YES・NOで簡単チェック!パターン別必要手続とは?
ここまで説明した離婚時の姓と、戸籍に必要な手続をフローチャートにしてみましょう。今回は、
父親:A山一郎
母親:A山花子(旧姓B村)
子 :A山太郎
という、婚姻時A山姓を名乗っていた夫婦の離婚の例です。なお、前述したとおり、親権者が父母のどちらでも手続は同じです。
姓と戸籍は日本人ならではの悩み
子どもがいると、姓や戸籍をどうするかは悩みますね。姓は必ずしも希望どおりに変更できるとは限りませんので、離婚の際には熟慮し、ベストだと思う選択をすることが大切です。しかし、長い人生いろいろありますので、将来姓を変更したいと思うに至ったときには、お一人で悩まず、弁護士などの専門家にご相談いただければと思います。
今回ご説明した夫婦同姓制度も戸籍制度も世界では珍しい制度であり、ある種日本人ならではの悩みといえるでしょう。
近年、個々人の生き方や日本の家族の形は大きく変わってきました。個人的な意見ですが、親も子も、結婚・離婚の有無、姓などにかかわらず、その人がその人としてありのままに生きることができる、個性や多様性が尊重される社会の実現が強く望まれるのではないかと思います。
アディーレ法律事務所 弁護士 正木裕美
https://www.adire.jp/profile/masaki_hiromi/
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