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はじめに
皆さんは、“ペット”と聞いてどのような動物を思い浮かべますか?犬や猫はもちろん、魚類・両生類(カエルなど)・爬虫類(ヘビなど)・鳥類(フクロウなど)・昆虫など、多岐にわたります。新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要からペットブームとなっている一方で、ペットの飼育崩壊、飼育放棄などの社会問題も増加しています。
ペットを飼うということは、ペットと一緒に生きていく、ペットの命を預かるという責任重大なものです。
ペットに関する法律ってどんなものがあるんだろう?本コラムを通して、ぜひお子さんと一緒に学んでください。
この動物、ペットにできる?できない?
可愛いスズメがいました。このスズメ、家に連れて帰ってペットにできるでしょうか?
答えは、NOです。スズメは、鳥獣保護法や条例などで、捕獲や飼育することが制限されているのです。自然のなかで、「飼いたいなぁ」と思う動物がいても、実は自由に飼うことができるわけではありません。
動物によっては、捕獲や飼育に特別な許可を必要とする「野生動物」や、一般的に飼育が禁止されている動物がいます。注意しないと刑罰を科されるおそれがあります。
飼う前に、その動物が飼育可能か、必要な手続は何か、まず調べてみましょう。
ペットに関する法律を知ろう
ペットに関する法律として、「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)や、各都道府県や市で定められている「動物愛護条例」があります。また、外来生物の輸入や飼育を制限し、同動物の生態系を崩すことを規制する法律(いわゆる「外来生物法」など)、野生動物の捕獲や狩猟を制限する法律(いわゆる「鳥獣保護法」など)、絶滅のおそれのある野生動物の保存に関する法律(いわゆる「種の保存法」など)といったものもあります。
今回は、ご家庭で飼育するうえで、飼い主としての責任が定められている部分について解説しましょう。
ペットを飼育する際の飼い主の責任とは?
動物愛護管理法では、飼い主は“命ある”ペットを、責任を持って、種類・習性に応じて適切に飼育すべきことが定められています。
- 迷惑をかけないこと
ペットが人や物を傷つけないよう注意したり、糞尿や毛の処分・しつけ等をきちんと行ったり、人に迷惑をかけないように飼育しましょう。 - 感染症の予防をすること
綺麗な環境を作り、病気の予防接種等をして、ペットの感染を防ぎましょう。 - 逸走防止すること
ペットが逃げたり、迷子になったりしないように対策をしなければなりません。 - 終生飼養について
原則、ペットが命を終えるまで適切に飼い続けましょう。 - 繁殖制限について
飼育崩壊とならないよう去勢が必要な場合には手術をするなど、むやみに繁殖させてはいけません。 - 所有明示(身元表示)について
首輪や迷子札、マイクロチップで飼い主が分かるようにしましょう。
罰則はあるの?
動物愛護管理法では、ペットをみだりに殺傷したり、苦しめることを禁じています。ペットを虐待したり遺棄したりすると、犯罪行為として処罰されます。虐待とは、ペットを殴る・蹴るなどの暴力行為や動物を戦わせるなどケガの恐れがある行為だけでなく、えさや水を与えない、病気を放置する、不潔な環境で飼育するなども該当します。遺棄とは、ペットを捨ててしまうことです。
みだりに殺したり傷つけたりした場合…5年以下の懲役 または 500万円以下の罰金
虐待した場合…1年以下の懲役 または 100万円以下の罰金
遺棄した場合…1年以下の懲役 または 100万円以下の罰金
ペットが他人にケガをさせてしまったら?
では、自分の飼っているペットが他人にケガをさせてしまったという場合、飼い主はどのような責任を負うのでしょうか。治療費や慰謝料を支払う「民事責任」と、刑事罰(罰金や懲役)を受ける可能性のある「刑事責任」、それぞれについて解説します。
民事責任について
ペットが人にケガをさせた場合、飼い主は被害者にケガの治療費や慰謝料等を支払う必要があります。もっとも、すべての場合に責任を負うわけではなく、そのペットの種類や性質に応じて「相当の注意」をもってペットを管理していたときは、責任を負わないこともあります。
この「相当な注意」とは、どのような注意でしょうか?具体的に「これをしていれば大丈夫!」と言い切ることは難しいのですが、裁判例では、
- ペットの種類や性質
- 過去に人にケガを負わせたことなどがあるか
- 管理の仕方、しつけの程度等
など、さまざまな事情が考慮されて判断されます。
ほかにも、
- ペットを放し飼いにする場合には、ペットが飛び越えたり、隙間から噛みつくことができないように柵などを設置する
- ペットをつないでおく場合、ペットの力を考えて、紐やリード等の太さ・長さを考える
などの注意が必要です。
【実際の事件(大阪地裁 平成30年3月23日)】
Aさんは愛犬(小型犬)を連れて公園内を散歩中、急に犬が走り出したためにうっかりリードを離してしまいました。犬がランニングコースに侵入し、ランニング中の男性がそれをよけようとして転倒、手を粉砕骨折するといった大ケガを負ってしまいました。
男性は飼い主に治療費や慰謝料約3,950万円の支払いを求める裁判を起こし、大阪地裁は約1,280万円を超える支払いを言い渡しました。
刑事責任について
飼い主には、ペットが他人に危害をおよぼすことを未然に防止する義務があります。
ですので、ペットが人にケガをさせた場合、飼い主自身が「重過失致傷罪」、「過失致傷罪」などの刑事責任に問われる可能性があります。
【実際の事件(平成28年1月1日「第60回全日本実業団対抗駅伝」)】
駅伝大会が行われた日、近所に住むBさんは、愛犬を連れて散歩に出かけました。もちろん、Bさんは愛犬をリードでつないでいました。駅伝の選手が走っていたので、Bさんは立ち止まって応援したのですが、そのときBさんは犬のリードを離してしまい、駅伝のコース上に愛犬が飛び出して、驚いた選手がつまずいて転倒してしまいました。この事案で、警察はBさんを動物愛護条例(係留義務)違反で書類送検しました。
ん?条例?係留義務?また、新しい単語が出てきましたね。
先ほど、動物愛護管理法についてお話しましたが、この法律を受けて多くの都道府県や市は独自に動物愛護“条例”を定めています。ぜひ実際に、みなさんのお住まいの自治体の動物愛護条例を調べてみましょう。
この条例は、自治体によって内容が若干異なりますが、多くの条例のなかで、犬の飼い主に対して「係留義務」を課しています。これは、盲導犬や介助犬などの例外を除いて、飼い主は犬を係留すること(柵や檻など逸走を防止するための囲いのなかや、一定の場所で固定された物に鎖やリードなどで確実につないで飼養すること)が義務付けられています。ですので、自宅の外で犬を飼う場合や、散歩の際には、犬が逃げ出さないようきちんと管理しましょう。
(関連記事⇒自分や子どもの行動がきっかけで、事故・トラブルを起こしてしまったら)
離婚時にペットの“親権”を争う場合は?
「離婚が決まったけど、ずっと一緒に暮らしてきたペットは、子どもと一緒に自分が引き取りたい!」
こんなとき、どうしたらいいでしょうか?
ペットは法律上「物」としてみなされるため、財産という扱いになります。ですので、離婚の際には親権ではなく、財産分与のなかでどちらが引き取るかを決めます。つまり、ペットの“所有権”がどちらになるのか決めるのです。
もし争いになった場合には、基本的には当事者の自由な意思で決めることができます。その際には、
- ペットを買ったのは誰か
- ペットを育てたのは誰か
- ペットはどちらになついているか
- ペットを今後も育てることができるか
など、これまでの、そしてこれからの生活を広く考慮して決めましょう。
ペットは原則、引き取った側が飼育に必要な費用を負担します。ペットの生涯に必要なお金は数百万円といわれています。ペットの幸せを一番に考えた選択ができるようにしたいですね。
まとめ:ペットは「命あるもの」
ペットは可愛いし、癒されますよね。「可愛いから」「飼ってみたいから」という気持ちから飼育を始める方もいらっしゃるでしょう。ですが、今回解説したように、飼い主には大きな責任があります。
家族の一員となるペット、その命が終わるときまで愛情と責任を持って世話をしましょう。そして、ペットを幸せにするためにはどうしたらよいか、ペットを飼っている人も、これから飼いたいと考えている人も、お子さんと一緒にしっかり考えてみてくださいね。
アディーレ法律事務所 弁護士 鈴木美穂
https://www.adire.jp/profile/suzuki_miho/
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